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【1】開花するまで、花の構造とか
【2】受粉作業
【3】種子の回収
【4】播種・タネ蒔き
開花するまで、花の構造とか
花期と受粉の作業期間 種によって異なります。 開花するものはだいたい前年の冬には花芽の頭が成長点付近に出てきます。 東京屋外栽培で、早いものはだいたい3月末〜4月の始まりあたりから開花しだします。 E. derenbergii 系が早いです。 朧月は4月半ばくらい。 E. moranii とか 6月入ってからだったり夏頃咲くものもあります。 E. affinis なんか8月の暑い時期。 E. ‘Black Prince’ とか9月とか下手すると11月とか。 交雑種は中間くらいの時期になりやすいです。(種子親寄りっぽい印象)

ハウス栽培だと早まります。 株の大きさにも影響され、大株は開花が早いですが付ける花も多いので開花期間は伸びることもあります。 ハウス訪問などで上手く調節すれば自前では花期の合わせ難いもの同士でも交配出来る可能性があります。

花茎はカットしても切花同様しばらく生きています。 花粉親としては十分に使えましたが、種子親としてはかなり厳しいような気がします。 水差しにしたほうが長持ちするかとも考えましたが、腐りやすくなるような気がしたのと日光に当ててないと活動が鈍る感じだったんで試したことはないです。 晴れて暖かい日は花粉が粉を噴き出すような感じになるのでいかにも具合が良さそうです。

ちなみに花茎についてる葉っぱでも葉挿しできます。 色々弄りたくなりますがベンケイソウ科の場合素性を知る為の重要な資料にもなるので観察も忘れないようにしたいところです。





だいたい

花弁の展開(開花)
 ↓
数時間ほどで花粉が噴出す
 ↓
次の日あたりに柱頭が濡れだす

という印象。


画像は Sedum suaveolens なんですが、Graptopetalum 属なんかは開花した当初はそれこそ赤いマッチ棒のようにコーティングされたようになっていて、開花直後には花粉が噴出していないこともあります。 中にはボール状に固まったまま粉として使えないケースもあります。 次の年は普通に粉状だったりするので理由は不明です。 110518_103424.jpg
130517_120717_ed.jpg 非常に良く出た E. purpusorum の花粉。 不思議な花で、花粉が出てくるまで1週間くらい掛かりました。 「花の形成に失敗してる?」と思ってもしばらく様子を見て観察してみるほうが良いです。
中央の黒く水分が浮いてる部分が雌蕊の柱頭、マッチ棒のような部分が雄蕊の葯から出た花粉。 中には柱頭に特に色がない場合や、先細りで弱々しいものなどもあありました。 交配に使った中では Sedum palmeri などがそうでしたが先っぽの柱頭らしい部分に花粉を塗ったら特に問題なく交配できました。 100129_141817.jpg
120608_152853.jpg Echeveria や Pachyphytum なんかは花が下向きのベル状になっているんでしばらく残ってますが Graptopetalum は上向きに咲くし花粉が少ない上に雄蕊が反り返って花粉がどっかいってしまうので早めに。
これは恐らく xGraptoveria なので例としてはイマイチですが、エケベリアでこれくらいしか花粉の量が出てないものは黄色信号。 花粉の少ない個体は不稔(種子親にも花粉親にも使えない)だったことが多いです。 明らかに出が悪いので分かると思います。 それでも微かに花粉らしいものは出ているんで使ってみましたが、花粉親としても種子親としても成功率は極めて低かったので失敗する覚悟で臨んだほうが良いです。 属間交雑種は不稔になる、というのが通説ですが割りと例外が存在します。やってみないと分からない部分は大きいです。 100105_133201.jpg
受粉作業
131011_145635_ed.jpg お目当ての花同士が開花したらいよいよ受粉です。 基本的には「花粉を相手の雌蕊の先っぽに塗る」という単純な作業ですが、こなす数によっては物凄く大変です。 受粉作業を効率良く進めるポイントを紹介したいと思います。 作業としては・・・

◆ 雌蕊の不要なものをティッシュで吸い取る
◆ 雄蕊を精密ピンセットで切り取って目的の雌蕊に塗る
◆ 記録する

・・・の繰り返しで、さっさと作業すれば数分ですが、毎朝なのでこの時期は大変です。 私は受粉した覚えがないのにさっさと閉じてる花は風媒や虫媒している可能性が高いんで切除しています。 組み合わせを限定しておくと記録作業や発芽後の確認作業が容易です。

原種の場合は放置しておいても自家受粉で種子が採れることが多いですが、塗ったほうが確実じゃないかと思います。 数日すると自然に花弁が閉じて丸くなるので、このとき雄蕊が雌蕊が接触して自家受粉しているような気がします。 「組み合わせは何でも良い」という人は柔らかい筆か何かでチョイチョイすれば良いと思いますが、蜜がつくとベトベトになります。 個人的には計画的に組み合わせを考えて作業したほうがモチベーションが保てます。


『花弁の処置や挙動』
花弁は切除しても問題無いです。 私はグイッと広げてクセをつけてしまいます。 この時ついでに雄蕊も外側に向くので、風媒による自家受粉の可能性も減っているのではないかと思います。 クセをつける際は根元からもげないように注意します。

ものにもよると思いますが、受粉すると花びらはしおれたり閉じたようになる仕組みがあるように思えます。 何もせずそのまま咲かせておけば何日か咲いていますが、開花から日数が短いものでも受粉に成功した次の日にはしぼみだしていることが多いので、ある程度受粉成功の目安になるかと思います。 なので必要ならば花粉は使い切ってから受粉させたほうが良いです。
『ティッシュ』
雌蕊の付け根、奥のほうから蜜が出ます。 日当たりの良い日はとても濃くて水飴状です。 フルーティーな甘さでなかなか美味しく、舐めてみると楽しいですが防虫剤が気になるところです。

雌蕊の先にも水分が出てきます。 詳しくは知りませんが、舐めても味がしないんで蜜ではないようです。 たぶんOKサイン的なヤツで、これが出たら受粉させてますがだいたい成功しているんでそういうものなんだと思います。 花粉が浮いてしまったり湿るとノリが悪くなるような気がするんで、ティッシュを当てて吸い取ってますが問題なさそうです。 粘性がほとんど無いんで軽く当てるだけで吸い取れます。
『精密ピンセット』
個人的にはマストアイテムです。 普通のピンセットだと上手く雄蕊を掴めません。 精密ピンセットだと、「雄蕊を挟む」→「掴んだまま切断」という作業が簡単に出来るのでとても便利です。 毛抜きだと先が太くてやはり使いにくく、小さいので手も疲れます。 雄蕊1本につき雌蕊1組くらいの配分になりますがそれほど「ひたすら花粉親で使いたい株」みたいのがない限り間に合うと思います。

工作用のものは結構高価ですが、100円ショップにもそれなりのものがあります。 ヤスリで丁度良く調節してみるのも良いと思います。 筆も試しましたが、しっくりきませんでしたので。 やっぱりグリグリ塗ると「塗ってやったった感」があります。
『除雄』
除雄とは自家受粉を防止して、目的の花粉が受粉するようにその花の雄蕊を除去する作業です。 簡単に言えば不要な雄蕊をさっさと切除してしまうことです。 交雑させたはずなのに発芽してから「実は自家受粉でした」となるとガッカリなので出来るだけやっておきましょう。
『ハチ避け』
ミツバチがブンブン飛んで来てゴソゴソされると、お目当ての花の花粉をゴッソリ持っていかれたりすることがあってとても困ります。 意図しない花粉を受粉する可能性もあります。 そこで不織布や、ネットで軽く包んでやると良いです。 通気性抜群で、軽いため花茎に負担が掛かりにくいです。 不織布は台所の三角コーナーに使う「水切りネット」が安価で代用出来ます。 あとはクリーニング屋の袋とか。 ホチキスやテープ等でとめて使いやすい形状にします。
『記録』
記録付けはなかなか大変です。 色々試しましたが未だに定番となるようなアイテムも無く。 来年用に100円ショップで色つきのゼムクリップを買ってみました。 ヒョローンとした先っぽのほうに沢山つけると若干重いかもしれませんが、視認しやすいし風の影響も小さそうなので期待しています。 ラッピングタイ(針金にリボンがついたようなヤツ)というのも良さそうです。 「この花茎にはこの花粉」くらいに組み合わせを簡略化しておくのも面倒臭過ぎないので良いかなと思います。何しろ長丁場なので。



種子を回収
どれが種子なのか?


未経験者最初の難関がここにあると思います。 ゴミみたいな粉状なので初見だと種子が出来ていても種子だとなかなかわからないです。 種類にもよりますが本当に粉状のものから、紙に落としたらパタパタと音がするくらいのツブ状のものもあります。


分かりやすい E. lilacina の種子。 ☆の内側に見えるツブツブ。 乾燥すると内側から裂けて、軽く叩くとパラパラ落ちてきます。 だいたい赤茶色で細長い感じ。 種や品種によって種子の大きさは結構変わります。 100613_164017.jpg
100129_142234.jpg いくら乾燥させてもニンニクみたいな形のままぜんぜん裂けてこないものも多いです。 そういうのは剥いてやると中からドバーっと出てきます。 グニャっとしてパリっと裂けないうちは乾燥が不十分かも。
朧月の種子。白いツブツブ。上側のはどこかに飛んでいったのか空になっている。 たまに真っ白い種子が出来ていますが、不発に終わることが多いような気がします。 080613_134650.jpg
110405_141847.jpg 購入したアエオの種子。ゴミじゃないよ。 流石に不安感たっぷりでしたが普通に発芽しました。 エケベリア等よりも成長が早いので楽しいです。




『早めに回収してしまおう!』
受粉が済み、ある程度経つと花茎と花の間の部分は萎れてきます。 あとは自然乾燥するだけなので段階で回収してしまいます。 そのまま乾燥するまで待っても良いですが、濡れて腐ったり紛失してもつまらないので花の付け根がしおれてきたらさっさと回収してしまったほうが良いです。 水分が少ないので手で千切ろうとすると結構失敗しやすく、花茎を傷つけたりしやすいのでハサミを使って切断したほうが無難です。

回収した花は紙などに包んで完全に乾燥するまで待ちます。 私はメモ用紙に親株を書いて、それを折った中に保管して乾燥待ちしています。 良く乾燥していると、ものによっては軽い振動でもパラパラと種子が出てくるので分かりやすいと思います。 表記としては・・・

母株 X 父株

母株
X
父株

先に書かれる方(左側・上側)が種子親・母株
後に書かれる方(右側・下側)が花粉親・父株

というのが一般的なルールなので覚えておいたほうが良いです。



播種、タネ蒔き
131011_145343_ed.jpg 花ガラから種子を分離、そしていよいよ蒔く! 茶漉しと手頃な鉢と腰水トレー。 年季入ってます。 茶漉しは目の細かい網で花の残骸と種子を分離します。 必要というワケではないですが、気分も良くないしカビの原因になるんで不要な部分は取り除いておいたほうが良いです。 私はコピー用紙の上に茶漉しを置き、その上で花を分解します。 分解が終わったらトントン、と叩くと気持ちよく種子が回収できます。 あんまりやりすぎると残骸が粉状になって混じりだすんでほどほどに。 くしゃみをするとコントみたいになります。 分離が終わったらすぐに蒔くなり、包んでいたメモ用紙に戻して気温待ちをするなり、秋まで保管するなり。 フィルム状の袋に保管すると静電気で貼り付いてイライラするので、薬包紙とかの紙系が良いです。

【種子の保管期間】 詳しくは不明ですが、常温でも1年くらいは余裕っぽいです。 冷蔵すれば数年いけそう。 アエオニウムだと数年前に咲いた株の種子が屋外で発芽してきたりするのでなかなかタフです。


『鉢』
腰水でしっかり給水出来るように、浅めで小さめのものが色々とオススメです。 ラン鉢のような背が高くて地表と水面が離れるものはイマイチでした。 湿度等の問題でしょうか?
『土』
防虫剤は入れたほうが良いです。 粗過ぎ無ければ普段使っている培養土で良いと思います。
『表土』
表土は細かいもののほうが発芽率は高かったですが、手頃な赤玉土小粒でもあんまり不満も無いです。 芝目土あたりが無難でしょうか。 いくらか試しましたが、それほどこだわってもあまり変わらないような印象です。 恐らく土がどうこうよりも種子の発芽力のほうが重要じゃないかと思います。 殺菌・消毒も個人的には面倒なのでしないです。 レンジでチンやら熱湯やらホーマイやらで消毒するのが多いかも。 ちなみにハオルシアは「バーミキュライト」が良いという話を聞くことが多いような。
『蒔く!』
上から水遣りすると土の隙間に流れていってしまうんで、腰水で給水してから蒔いています。 粉状なのでなかなか均等に蒔くのは難しいです。 私はV字に折った紙をトントンしながら蒔いています。
『腰水用トレー』
使いやすければ何でも良いと思いますが、あまりに簡易なものだと事故ります。 「豆腐が入っていたパック」のようなものだとすぐに劣化して弾力性を失い、砕けてバラバラになったりします。 また持ち運ぶ際にたわんだりすると危ないので、ある程度の厚みと頑丈さのあるトレーを用意することをオススメします。 私は100均のカトラリートレー(スプーンとかフォークを入れるヤツ)を何個か購入して毎年使っています。 小鉢が4つ納まるジャストサイズで、深さも腰水するのに十分です。
『環境・置き場所』
種子を回収するころには良い気温になっていると思いますが、適温は 27℃ くらいの印象です。 よくわかりませんが、秋に気温が下がり始めたくらいにも発芽しだす種子があったりするんであまり高温でも良くないのかもしれません。 夏に失敗しても秋に生えてきたりするんで気長にいきましょう。 雨にあたるような場所だと雨粒に吹き飛ばされるんで流石にNG。 窓越しでしかやったことがないのでハウスでの遮光はわかりません。 室内は目が調光してしまうのでわかりにくいですが、屋外に比べるとかなり暗いです。 窓越しの場合は真夏でも思い切り光に当てるようにするくらいのほうが良いです。 窓ガラスに近い鉢ほど調子が良いくらいです。 腰水があれば豆苗でも平気です。 エアコンも掛けて全然大丈夫です。 ある程度多肉らしくなったら給水頻度は減らしても平気です。 多肉だし。
こういうのが生えてきたら成功!あとはせっせと水を足すだけだ!最初はかなり小さいですがしばらく双葉のまま大きくなって、ある程度成長すると本葉が出てそれらしくなります。 100601_152920.jpg
『最大の脅威・コバエの幼虫対策』
正確にはわかりませんがコバエといっても蚊の仲間か何かみたいで、幼虫もボウフラっぽいです。 蚊を小さくしたような黒いヤツが親だと思われます。 半透明でウネウネ動き、水攻めは効きません。 食害スピードは驚異的で、実生苗最大の敵です。 驚くほどモリモリ食べられてしまうのでなかなかの絶望感でした。 ピンセットなどで捕殺しようとしても反応が鋭く、まず逃げられます。 殺虫剤や除菌用アルコールなどで駆除するしかないようです。

幸い、土にあらかじめオルトランと混ぜるようにしたらまったく発生しなくなったのでやはり事前の防虫が手っ取り早いです。 親のコバエ自体は蚊取り線香や、水+めんつゆ+洗剤を混ぜたもので退治できるみたいです。
090922_145007.jpg 黒土でもまあまあ発芽しました。 表土は芝目土のような小さめの細粒状の土が発芽率高めに感じました。 ただ小粒の赤玉土でもそれほど問題も無く、管理や調達もしやすいものでそれを使っています。 そこそこの細かさがあれば何でも良いのだとと思います。 バーミキュライトとかだと水に浮いてしまうかも。
あまり発芽率が良すぎても面倒といえば面倒です。 正直これは失敗だったと思います。 ある程度苗と苗の間隔が空いていたり、小さめの小鉢で実生したほうが並べ替えたり植え替えたり色々と取り扱いがしやすいです。 110406_124805.jpg
111014_114556.jpg 111205_103027.jpg 土の処理や管理によっては表面がカビてきます。 たまにカビに侵食されている苗がありますが、大半は実害らしい実害もないでの放置しています。 変にいじくりまわすほうが良くないかも。 表面の養分がなくなるとカビも出なくなるような。

ちなみにコレは Aeonium spathulatum 。


液肥もなんとなく好感触だったので使ってみると盛り上がります。 置き場所にもよると思いますが、秋になると日当たりが悪くなって徒長しだしたりするので私は屋外管理に移します。 雨避けのみで真冬も出しっぱなしです。 雪の日は毎年ビビりますが毎年特に変化無しでした。 ものにもよりますが耐寒性は親株と同じくらいか、小さい分水分が少ないのでちょっと上くらいの印象です。 寒さに弱いという印象はないです。(元々寒さに弱い種は除く) 都内ならば風を避ければだいたいのエケベリアは平気だと思います。 寒さや水分がどうこうというよりも雨粒の衝撃とか雪の重みのほうがハードです。 暖かくなったらさっさと成長して欲しいんでちょっと寒いうちに植え替えます。 最初の梅雨と夏が勝負所です。